小説が書けない

小説が書けない時、代わりに吐き出す場所として

掌編小説『切花』

『切花』

 

音楽家を目指して上京して

酒と男で人生を駄目にした

誰かに声を聴いてもらいたくて

その実伝えたいことなんて何もなかったのだ

ただ、私がここに居るということを誰かに知ってもらいたかっただけなのに

それに気付いたときにはもう、私の手はアルコール中毒で震えてピックも握れなくなっていた

散らかった部屋に寝ころんで、ついさっき癇癪を起こして倒した花瓶を眺める

私は切花。自らを縛る大地を失って、ようやくどこにも行けないことに気付かされた。

実家に帰る事になって

迎えたのは家族の冷たい目

それもそうだ、音楽をやるなんて言って大学にも行かず家を飛び出して

こんなざまになって帰って来たのだから

誰も悪くない

私は間違えていたのだろうか

私はなにものかになろうとした

そして、失敗した

レールを敷かれた人生の、その終点に何もなかった時の事を想像して怖くなってしまったから

飛び出してしまったのは、間違いだったのだろうか?

力が入らないからだを、3ヵ月取り出していないギターケースに寄せかける

蛍光灯の電気を消した天井をにらんで

わたしはぽつりと呟いた

一度切られた花を大地に刺そうとも

それは萎れていくだけだ

人生の電車は行ってしまった

普通の人生を送ることも、もう許されてはいないのだ

ふと本棚を見ると、幼いわたしが好きだった本が置いてあった

枯れていたはずの涙があふれてくる

子供のころに信じていたきれいな世界は、いったいどこに消えてしまったのだろう

まっすぐな夢を抱いていたきれいなわたしは、どこで死んでしまったのだろう

胎児のように背を丸めて泣いた

大人になってしまったわたしは

いま、赤ん坊に戻りたくてしかたがないと思っている

けれど、やっぱり時間は過ぎていくのだ

まわってゆく世界も

老いていくわたしも

こうしているあいだにも

夜明けの時は近づいて

真っ暗な部屋に、窓からうすい明かりがさしこんでくる

ふと涙をぬぐって空をながめてみると、それはとてもきれいな群青をしていた

きっと、明るい部屋では見えないくらいの

いまにも顔を出そうとする太陽に照らされた空のひかりだ

月が照らされて輝くように

午前五時の空の粒子は、まだ見えない太陽の光を反射していた

わたしは痛む身体を起こして、倒れた花瓶を立て直す

部屋の外に出よう

花瓶に水を入れ直さなければならない

まだ、この花は枯れていない

きっと誰も起きていない、太陽が顔を出す前の時間に

人生の電車も行ってしまった一人ぼっちの世界で

わたしはふらつく身体で立ち上がった

私は切花。手折られても、まだその命は潰えない。

ーー

111111字の小説をメフィストに投げて、その後20分で書いたやつ

散文詩みたいな骨組しかできてないから、また肉を付ける作業を余裕ができたら

掌編集みたいなのも書きたいな、今完成1骨組2構想2あるから、十個くらいできたらまたどっかに投げようか