小説が書けない

小説が書けない時、代わりに吐き出す場所として

掌編小説『切花』

『切花』

 

音楽家を目指して上京して

酒と男で人生を駄目にした

誰かに声を聴いてもらいたくて

その実伝えたいことなんて何もなかったのだ

ただ、私がここに居るということを誰かに知ってもらいたかっただけなのに

それに気付いたときにはもう、私の手はアルコール中毒で震えてピックも握れなくなっていた

散らかった部屋に寝ころんで、ついさっき癇癪を起こして倒した花瓶を眺める

私は切花。自らを縛る大地を失って、ようやくどこにも行けないことに気付かされた。

実家に帰る事になって

迎えたのは家族の冷たい目

それもそうだ、音楽をやるなんて言って大学にも行かず家を飛び出して

こんなざまになって帰って来たのだから

誰も悪くない

私は間違えていたのだろうか

私はなにものかになろうとした

そして、失敗した

レールを敷かれた人生の、その終点に何もなかった時の事を想像して怖くなってしまったから

飛び出してしまったのは、間違いだったのだろうか?

力が入らないからだを、3ヵ月取り出していないギターケースに寄せかける

蛍光灯の電気を消した天井をにらんで

わたしはぽつりと呟いた

一度切られた花を大地に刺そうとも

それは萎れていくだけだ

人生の電車は行ってしまった

普通の人生を送ることも、もう許されてはいないのだ

ふと本棚を見ると、幼いわたしが好きだった本が置いてあった

枯れていたはずの涙があふれてくる

子供のころに信じていたきれいな世界は、いったいどこに消えてしまったのだろう

まっすぐな夢を抱いていたきれいなわたしは、どこで死んでしまったのだろう

胎児のように背を丸めて泣いた

大人になってしまったわたしは

いま、赤ん坊に戻りたくてしかたがないと思っている

けれど、やっぱり時間は過ぎていくのだ

まわってゆく世界も

老いていくわたしも

こうしているあいだにも

夜明けの時は近づいて

真っ暗な部屋に、窓からうすい明かりがさしこんでくる

ふと涙をぬぐって空をながめてみると、それはとてもきれいな群青をしていた

きっと、明るい部屋では見えないくらいの

いまにも顔を出そうとする太陽に照らされた空のひかりだ

月が照らされて輝くように

午前五時の空の粒子は、まだ見えない太陽の光を反射していた

わたしは痛む身体を起こして、倒れた花瓶を立て直す

部屋の外に出よう

花瓶に水を入れ直さなければならない

まだ、この花は枯れていない

きっと誰も起きていない、太陽が顔を出す前の時間に

人生の電車も行ってしまった一人ぼっちの世界で

わたしはふらつく身体で立ち上がった

私は切花。手折られても、まだその命は潰えない。

ーー

111111字の小説をメフィストに投げて、その後20分で書いたやつ

散文詩みたいな骨組しかできてないから、また肉を付ける作業を余裕ができたら

掌編集みたいなのも書きたいな、今完成1骨組2構想2あるから、十個くらいできたらまたどっかに投げようか

そこに還る

書けないね、ああ書けない。どんな作品でも、前半のどこか一小節くらいはつまらないものが紛れている。けどそれは不要じゃなくて、なんの伏線もなくても、どんな興奮がなくても、そこから何もかもが崩れ去るときの衝撃、それを大きくするために必要な積み上げなんだ。で、今僕はその『つまらない部分』をどうにかして面白く、せめて不快感なく読めるようにするっていう地獄みたいな改稿をしている。

本当は、ここにも書かずに消えるつもりだった。けどまあ、書けないときにここに書くと結構描けたりするんだよなぜか。ポッと言葉が出てくることがあるんだ。ちなみにこうやって思考停止したまま書いてると直前に読んだ文章に文体がめちゃくちゃに引っ張られる。さっき読んだのは一方的にフォローさせてもらってる人たちのブログだ。

アレ、だ。一番の根源となったアレ。もう名前も見たくないから言わないけど。瞬間瞬間にアレのせいで沸くネガティブな思考、本来ならアレから来る記憶力の悪さで一瞬で消えるはずのそれを永遠に固定化できてしまうTwitter、そして、絶望的にそりの合わない、ありていに言って救いようのないルサンチマン塗れの屑の言葉でも否が応でも目にしてしまう”掲示板”という機構。どっちも精神に非常に悪影響が来てたみたいで、ふと二つともやめてみたら結構精神がマシになった。夏休み、それもあるかもしれない。けどどうせ俺の夏休みは休みじゃない。

孤独は立ち寄るには良いが、住むには寂しい。そんな格言があったと思う。僕は逆だ。ただ、あんたらの場所に立ち寄っていた。そして、これから孤独に還る。17年間そこで生きてたから、個人名の上がるツイートとかを見てるだけで結構キツかった。孤独の中では、こんなにも時間が有り余っていて、こんなにも強く生きれるのだと思い出した。今は毎日一冊の本と十冊程度の漫画とたまに映画やアニメを見ながら勉強と執筆をやっている。二年ぶりくらいだろうか。またそっちに立ち寄るかもしれない、その時はよろしくお願いしたい。

ずっと書いている。頭痛がメチャクチャにキツい。刺すような鈍痛が襲い掛かってくる。今日は一食、焼肉食べ放題ソロしか行ってないけど吐きそうだ。けど、心は結構元気だ。

Twitterで大量の『言葉』を仕入れた。掲示板で幾度も小説のアドバイスを貰った。決して無駄じゃなかった。けれど、とりあえずはこれくらいで十分だ。夏の間に書き上げる。絶望的な量のタスクも勿論、部活のデスマーチもだ。でも、今は結構元気だ。夢があって、それを追い続けられる。夢に向かって走りながら死ねるなら、それはそれでロックじゃないか。孤独になったから、ここまでポジティブになれたように思う。

それでは皆さん、ごきげんよう。

砂金(掌編小説)

ネタに使った人達、端的に言ってごめんな、ありがとう、ごちそうさま。

 

――

「御岳ちゃんの剣道はさ、なんていうか怖いよね」

そう言われた時、私は一心不乱に皿の隅のキャベツをつついていて、一瞬それが自分の事だと分からなかった。

「…はい?」

顔を上げると、アルコールが入った先輩の赤ら顔。

「迫力っていうか…殺気みたいなのが漂っててさ、一本一本に邪念が漂いまくってるような…あー、それで強いから何も言えないんだけど」

「別にそんなつもりは、ないんですけどねえ」

とりあえず、控えめに否定する。けれどももう先輩は聞いていなくて、隣の女の子と上機嫌で話し始めていた。後輩のその子はウーロン茶を片手に笑顔で先輩の話に相槌を打つ。それを私は黙って眺める。奥の方では男の部員同士で大騒ぎが繰り広げられている。一年生が下着まで脱がされそうになって逃げ回る。上級生は鍛え抜かれた上半身を露わにしたまま一年生を追いかけまわす。部の優勝祝いなんて、どこだってそんなものだと思う。

「もっと理性的にならないといけない」

そんなことを先輩は言った。哲学科に通う先輩で、あだ名はそのまま“哲学先輩”。ちなみに、剣道のほうはてんでダメだ。

「間違ってもあんな馬鹿はしないようにしないとね。あんなのは、なにも考えていない馬鹿のすることだ」

そう言って先輩は大騒ぎする男子部員たちを横目で見る。奥の方のらんちき騒ぎを見て、後輩がけらけらと笑う。私はハイボールを頼む。酸っぱい葡萄、心の中でそう毒づいた。

「先輩は何か飲みますか」

「あー、うん、焼酎を頼むよ」

おざなりな返事を聞きながら、やってきた店員に注文を伝える。後輩の女の子が追加であんずサワーを頼む。

「そういやさ、さっき頼んだ牛串まだ来てないんだけど」

「すみません、ただいま大変混み合っておりまして」

「混んでるとかそういう話は聞いてないんだよ。遅いのはそっちがモタモタしてるからだろ」

みんなもっと考えた方が良い。先輩はそう言って自分の仕事論だとか、人生論だとかを語り始める。店員と私と後輩は、揃って曖昧に笑いながらそれを聞く。どこか別の場所でも、店員の謝る声が聞こえる。先輩はまた、正しいだけのことを言う。どこも間違っていない、私なんかの頭じゃあ反論も思いつかないような正しい言葉の羅列。先輩は話の合間に酒を飲む。どんどん顔の赤みが増してきて、どんどん饒舌にいろいろなことを評価し始める。机の下で箸を折る。誰もそれに気付かない。心の中で店員に頭を下げる。そんなことをしても、店員には伝わらない。

わたしはこの人が嫌いだ。正しい事を知ること、言うこと、為すこと、全部天と地ほどの差がある。正しい事を言うのはいつだって気に入らない人を叩くためだし、正しい事を知るのは、いつだって自分が正しいんだと薄っぺらな自己を守るためだ。そして、正しい事は何もできない。この世界には、そんな人が沢山居る。

他人を否定できる理由。知らないのだ、誰かが自分より弱いのか、それとも自分がまだ自分の弱さを知らないだけなのか。自分の強さも弱さも、その時が来るまで分かりはしない。大人になるまでにそれを知る時が来るのは、幸せなのか、不幸なのか。失敗するのは怖い。けれど、それを知らないまま大人になった人間は、失敗した不運な人達にどこまでも冷酷になれてしまう。

話を聞き流しながら、ジョッキの中のものを一気に飲み干す。身体が芯から熱されていく、頬が、額が燃えるように熱くなる。ぼやけて揺れる視界の中で、先輩の背中側、騒ぐ男子部員や賑やかに話す女子部員達が、遠い星々のように輝いて見える。

誰が正しいのか?誰か正しいのか?いくら正しい事を言っていても人を貶める事しかできない人、ただ、一時の熱の渦の中で踊り続ける人達。何も考えていないようにけらけらと笑う後輩と、何もできず、何も言えないままアルコールを呑むわたし。そのどれか一つでも、正義があったり、幸せがあったり、神様が居たとして赦してくれるような、そんなものだったりするのだろうか。何も考えたくなくなって、ジョッキを放り出すように机に叩きつける。

わたしは先輩の話を遮るように、他愛のない、毒にも薬にもならない日々の話を始める。自分の科の授業のこと、部の外の友人のこと、面白く聞かせられるものだけを、面白く聞けるように話す。先輩は面白くなさそうに頬杖をついている。後輩の女の子は、その他愛もない話を面白くて仕方がないようなふりをして聞いている。

本音を言わないのは、それを言わない方が良いからだ。人はよくそれを忘れる。本音で語り合って、分かるのは分かりあえないことだけだったりする。私には分からない、仮初めでも続く平和があるのなら、そこで暖を取るのも悪い事じゃないのではないだろうか。ただ、私はその輪に入らないし、入れない、それだけの話で。

このテーブルは出島だ。輪っかに入れなかった人だけがここに居て、へろへろと上辺だけで笑ったり、不満を言ったり、むっつりと押し黙ったりしている。私は、集まって騒ぐ対岸の彼らを、みんなで笑う彼女たちを羨ましいと思う。彼らは、私から見れば宝石のように輝いている。たとえその幸せが今一瞬の刹那的なものだとしても。過去には後悔しかない。未来には絶望しかない。そんな生活の中で、今一瞬の輝きに身を任せるのを誰が責められるのだろうか。

真っ赤な顔をした幹事が出てきて、会がお開きである事を告げる。酔っぱらって千鳥足になりながら出ていく人、立てなくなって、他の誰かに肩を抱かれて引きずられるように出ていく人、その後ろを、影法師か幽霊みたいについていく。

「こんなバカ騒ぎに参加させられて、それでお金取られるのは割に合わないなあ」

後ろに居た哲学先輩が、わたしだけに聞こえるくらいの小さな声でそう言った。

「良かったら、次から私が、先輩は用事があるらしいって伝えておきますよ」

「いや、いいよ」

私の言葉に、慌てた先輩が首を横に振った。私は笑って、それ以上何かを言われる前にそこを後にする。お酒は人前ではあまり飲みすぎないようにしないといけない。理性を失って、私の鋭い部分が外に出てくるのは怖いから。

会計担当の部員に代金を渡す。全財産残り300円、バイト代が振り込まれるのは明後日だ。途中でスーパーに寄って、食パンを買って帰ろうと思う。

ふと空を見上げる。真っ暗な曇り空。日が変わったばかりの空は曇り、月や星の光なんて欠片も見えやしない。街灯の光だけがキラキラと輝いている。

火照った顔に当たる夜風が涼しい。立ち尽くす私の周りで、名残惜しげに騒ぐ部員達。このまま、別の場所に遊びに行くものたちも居るようだ。

アルコールを飲んでしまった。今日の薬は飲まない方がいいだろうか。誰にも言えないすべてのこと。飲み干すように、安い煙草に火をつける。何もかも忘れるには、もう全てに馴染みすぎた。

「あたしにとって日々の幸せは、砂金みたいなものなんですよ」

いつも自分からは喋らず、ただニコニコ笑っているだけの彼女が、そんなおおげさな、詩のような台詞を叫んだから誰もが驚いて振り向いた。

「さらさら零れていくそれを求めて、あたしは何度も泥の川の底を攫うんです。それが、あたしの生活なんです」

さっきまで笑顔だった後輩の女の子は、叫びながら泣いていた。あんまり急なことだったから周りの何人かはぎょっとした顔で足を止める。

「いいよいいよ、わたし降りる駅一緒だから、送ってく」

わたしは屈みこんで、膝を抱えて泣く彼女の頭を片腕で抱く。わたしを含めた何人かはもうそんなに驚いていない。この子はたまにこうなる。だから遠慮して、あんな出島にいたのだろう。

「すいません、助かります御岳さん」

眼鏡をかけた、真面目だけど不器用そうな顔の男の後輩が頭を下げる。そして、すぐに笑顔に戻って人の輪っかの中へ戻っていく。遠くなっていくうしろ姿にひらひらと手を振ってみたけれど、それを見る人間は居なかった。

その子がなにか大変らしいことは分かっている。どれくらい、どうして大変なのかは、よく分からない。できることなら楽になって欲しいけど、自分から助けようとするほどには日々の生活にも余裕がない。だから、普通の子と同じように接して、こうなった時だけ静かに介抱をする。わたし以外にもそんな人間が何人かいるのだろう。

「そんなんじゃ帰れないだろ、背負ってくよ」

彼女を無理矢理背負って、立ち上がる。びっくりするくらいに軽い体だ。

「…先輩、」

「わたし達、お酒弱いなあ」

彼女が謝りそうだったから、それを遮るように言って、笑う。

「座席選択誤ったかな」

「あはは、ごめんねムスッとしててさ」

「意地悪言わないでくださいよ、先輩」

他愛もない話をする。他の人の話、送る日々の話、全部、自分の深いところはなにもさらけ出さずに済む話だ。それも長くは続かずに、わたしは彼女を背負って無言で歩き続ける。そして、ゆっくりと彼女は口を開く。

「昨日ね、別れたんですよ。また、あたしが重すぎるって理由でした。不公平ですよね、なんであたし達だけこんなに大変な思いしなきゃなんないんだろ」

わたしは何も答えない。彼女のことは、何も分からない。だから、彼女の脆くて危うい場所についてかける言葉は、見つからない。

「先輩もそうなんじゃないですか?」

「失礼なことを言うなよな」

だって、先輩がみんなと居る時に笑ってるとこ、見たことない。茶化して笑おうとしたら、彼女は拗ねたようにそう言った。

「下手なだけだよ、笑うのがさ」

大騒ぎや、賑やかな人の輪。きっとその中にも、言えない苦しみを抱えたまま、わたしよりずっとうまく笑えている人が居るのだ。わたしには、それすらもできない。

「ちゃんと頑張ってるあたし達の方が、絶対に偉いんですよ、何も考えてないような人よりも」

吐き捨てるようにそういった彼女の表情は、背負っていたら見えない。わたしも見えないところで、曖昧に笑顔をつくる。

「どうなんだろうね」

苦しむことは、ただそれだけの意味しか持たないと思う。私は昔、あなたの分まで幸せになるからね、と言った。それから何年か経った今も、私は幸せになれずにいる。痛みは痛みのままで、私が失ってしまった命は、今のところ、なんの意味も持ちはしないのだ。

でも、彼女にはそれを言わない。私はいつだって、傷つけないために寡黙を選ぶ。そして、悲しまないためには何も知らなければいい。何も為そうとしなければいい。でも、私は生きて何かを掴まなければならない。だから、仕方なく生活をする。

近くの自販機で百円玉を入れる。外れることが分かりきったデジタル数字のルーレットを見ないで、出てきたアイスココアを後輩の頬に当てる。

「酔ってる時に飲むとうまいんだ」

わたしにとっては三分の一であっても、彼女にとってはたった百円ぶんの親切だ。人とのかかわりの中では、よくそんなことがある。自分の中でどれだけ大きくても、外に出せばたいしたことないなんてのは。

「でもさ、楽な方がいいよな。私は、できるなら苦しまずに生きたいよ」

私にとって、生きることは苦しい。それは生まれたときから決まっていたことだ。どれだけ騒いでも明日はやってくる。どれだけ笑っても日々の生活は重くのしかかってくる。明日のレポート、来週のテスト、週四の部活に週三のバイト。

母から、父がボケ始めたと連絡があった。母は昔と変わらないようにヒステリックにまくし立てた。わたしは聞いていられなくなって、受話器を置いてしまった。そして、初めて着信拒否をする相手ができた。もうこれ以上、あの人の面倒は見る気になれない。家を出るまでの間に、我慢し続けたのだから。正しさは私を幸せにしてくれない。それを教えてくれた事だけは、感謝しているけれど。

「あーあ、先輩みたいな優しい人だったらなあ」

彼女は一言そう呟いて、渡したココアには手を付けないまま寝息を立てはじめる。

まったく、子供だ。この子も、わたしも。

私は、苦しくても生きねばならない。償いきれないくらいに積み上がったささいな罪を、それでも償わなければならない。生きること、自分の罪を知ることだけが、僅かにでも償いになる。そう信じて今も日々の生活をなんとか送っている。私がかつて犯した罪を、人は大したことじゃないと笑うのだろう。他の人のことなんて、なんだって大したことじゃないのだ。変わり続ける事だけが生きることだ。昨日を悔い続けて、そうやって大人になっていくしかないのだ。

かつて、私は轟々と燃え盛るろうそくの炎のように生きていた。燃え尽きることが本望であるように、何もかも全部燃やし尽くすように。けれども、もうろうそくの火は消えてしまったのだ。残ったのは僅かな溶け残りの蝋と、汚いすす。振り返ると、ずいぶんと昔のことのように思える。

また日が昇る。明けない夜はない。けれど、毎日夜はやってくる。いつか、夜を越えられない日がやってくる。それまでは、波を繰り返しながら、少しずつ良くなっていると信じるしかない。

どうしようもない過去と未来の間で、私はこの子を背負ってゆっくりと歩いている。

承認を求める。わたしは他者からの肯定に飢えている。それも偽ったうわべの自分ではなくて、奥底に眠る、醜くてするどいわたしを誰かに赦してもらいたいと願ってしまっている。ここに居てはいけない。自分が自分であることを赦せるようになりたい。そのために、自分が自分であることを赦してくれる誰かに出会えるように。なにもわかんないけど、わかんないから、歩いていくしかないのだ。

終電まではまだ時間がある。このままゆっくり歩いても、十分に間に合うだろう。賑やかな声が、まだ背後から聞こえてくる。名残惜しくて振り返っても、もうどこにも彼らの姿はないのだ。彼女を背負って、反対側の駅へと歩き出す。

耳元で静かな息遣いを感じる。垂れ下がった髪が首筋をくすぐる。もう一度空を見上げる。砂金のような星の煌めきは、今日は見つけられなかった。

 

(完/砂金)

Too short to live gently.

「ここに居てはいけない」、いつだってそんなことを考えている。

ベッドの上で、パソコンの前で、行きつけのチェーン店で小説を書きながら、解剖室で指さされて笑われながら。
それが進歩であるか堕落であるかなんてどうでもいい。
僕は明日死ぬかもしれない。今日もし昨日と同じ日常を送ってしまったのなら、僕は死ぬまでに見れる世界を一つ失ったことになる。
還りたくなる過去は無い。希望を託せる未来も無い。だから、今この瞬間を生きるしかない。
急げ急げ急げ急げ、こうしている内にも心臓は止まりつつある。
走れ走れ走れ走れ、あらゆる要素が複雑に絡み合った僕の心の障害は、回復したり悪化したりを繰り返して、いつか弾みで命を絶つかもしれない。

前々から書いていた小説が書きあがった。とはいってもまだまだ雑だ。半分プロットみたいな出来事の流れしか記していない所もあるから夏休みまでに直すのもきつそうだ。
今週も試験で、あと大会の主催で会場の整備なども含めて土日は完全につぶれて、来週も追追試がある。
言葉遊びじゃない迫力のある文章を求める。それに出会えた回数はまだ少ない。ここには、たまに字書きでなくてもそういった文章を書く人が居る。
人間は嫌いだ、いつだって僕を虐げるから。
でも、たまに好きな人も居る。僕の持たない何かを持つ人は、尊い。僕を人間として扱ってくれる人の為に役立ちたくて、ポンコツなりに努力している。
世界は憎い、何度も戦って抗ってきた。
たまに、好きだ。おいしい食べ物、きれいな景色、好きな音楽を聴きながら小説を読み、書く時間。全て一人の風景だけれども。
まだ20歳になっていない。けれども、波瀾万丈な人生を生きてきたと胸を張って言えよう。ここでは書いてないこと、沢山あった。沢山苦しんで、沢山成し遂げてきた。全部一人で。
「俺はお前ら人間には信じられない光景を見てきた。オリオン座の肩で燃え盛る戦闘艦、タンホイザーゲートの近くの暗闇で輝くCビームも見た。
そういう刹那も、時の流れの中に失われていく。あたかも、雨、の中の涙みたいに。死ぬ……時間だ」
最近見た映画、ブレードランナーの中の有名な台詞だ。
僕の内に秘めたもの全て、この歴史の中で、この宇宙の中で、僕にしか抱き得ないものだと信じていても。
死は容易くそれを奪い去る。死は、怖い。死は、悔しい。
それでも、積み上げた刹那さえ消え去るとしても、刹那の中を走り抜けるしかないのだ。それしか、もう残されていない。
過去も未来もない。世界は日々悪くなっていくと、頭の良くて怠惰な人々が口々に言う。今日も普通じゃない僕らは、自分になんの落ち度もない過去に苦しめられて、吐いたり泣いたり自殺したり寝れなかったりしている。
永遠なんてのは、恵まれた人間が夢見るものでしかない。
ふんぞり返って厭世してる時間も、誰かと同調してくだらない笑いに溺れる時間も、何かをお客様気取りで評価している時間もない。

なりふりなんて構う必要ない。後で思い出して恥ずかしくなる頃には、きっと俺は生きていないから。
今この瞬間、俺にはそれしかないのだ。

もし、もし一つだけ叶うなら。
この刹那の連なりに、何か一つだけ消えないものを。
小説を書く。僕にとって、それは願いを叶えるための賭けだ。

I hate you.

認知行動療法、自分語り、ヘイトスピーチ


誰かが愛しいのなら、絶対にその愛の証明として相手を傷付けたりしてはいけない。
あなたの想いなんて、相手にはなんの意味もない。
『愛してるから』なんて、『お前のためを思って』なんて。

ここで改めて書かせてもらうと、僕はこの世界のあらゆる存在を憎んでいる。
殺したいと思う。ぐちゃぐちゃにしたいと思う。憎い。憎い。殺したい。憎い。
親も友人も画面の前のあなたも。全部全部壊したい。憎い。正確には、いくつか壊してきたけれど。

理解はしている。所詮ヒトの頭の中の現象だ、そこには因果が存在する。
或いは何らかのパーソナリティ障害に分類されるのかもしれない。
単純に、『助けを求められなかった人間の末路』だ。
最近、最初の原因を思い出した。心療内科に行けなくなってから代替手段としてセルフ認知行動療法を行っていた。
あれは最終的には治療へと向かうものだが、自らの暗部と向き合うものであるからその時々によっては精神が非常に不安定になる事がある。
ちょうど折り悪くそれが重要なテストの前日で、ただでさえ不安定な所にその記憶がやってきて、残っていたノーマルン(三環形)を全部飲んだ。
目が覚めたら金土日が終わってて月曜の朝だった。かくして五月早々に僕の留年が確定した。
最初の記憶。ADHD故文章は制御を努力しなければ見ての通りにひどいものになるが、内側の嵐を外側に放り出す事で少しでもマシになろうとしているだけだ。
画面の向こうの誰かなど、さっきも言ったように憎くて憎いだけだ。
二歳の頃に重い心臓病を患った。日本人に特有の病気であるため日本にしか治療法が確立しておらず、父親の研究について行ってアメリカに居た家族全員、父親も含め日本に帰ることになった。
それでまあ、キャリアコースから外れた父親は日本での教授の座席争いに負けて、鬱になった。らしい、最近聞いたことだ。ついでに自分が心臓病の後遺症でいつ死ぬか分からないことも最近聞いた。
それもテストの前だったりするが、それで大量の単位を落とした話も本筋じゃない。
小学校に入るか入らないか、そのくらいだ。なにも分からない。僕は普通の子供のように泣いたり駄々をこねたりした。ADHDだからもっとひどかったかもしれない。
鬱の父親は、そのたびに僕を二人きりの部屋に連れ込んで、自殺を仄めかした。『遠くに行く』とか『もう会えなくなる』とかそんな婉曲な表現だったかもしれないが関係ない。
『助けを求めたら』『誰かが不幸になる』 短期記憶が腐っていて未だに後輩の部員の名前が覚えられない僕が、一番最初に骨の髄まで覚えた確かな事だ。
僕は助けを求められない人間になった。
小学校。格調高い私学で突飛な行動を繰り返す発達障碍児は当然、いじめの対象になる。ここでは多く書かないが、幸い尻の穴にカエルの卵を入れられたりはしていない。
格調高い私学だった、いじめもそれなりに奥ゆかしいものだった。助けは誰にも求められなかった。親に求めたらもっと面倒くさいことになるのは分かりきっていた。
先生が気付いてちょっと騒ぎになったりもしたけど、一日も続かなかった。『他人が敵である』という感覚を、半数以上の人は知らずに生きていく。
自分のやらかした事で低い評価を受けて、それで拗ねている人間に関しては、マジで殺意しか沸かない。叩かれずに育って自意識の肥大した奴も同じだ。
中学、一番楽な時期だった。ネットゲームに入り浸った。この時の対価は高校で支払うことになるが、この時のことは無駄だとは思っていない。人並みの集中力を一瞬だけ発揮する方法とか、常人にはできない常人の越え方とかを色々学べた。ちなみやっていたのはFPSで、戦績は『一回倒されるまでに十回倒す』くらいだった。
高校。外では伝説だと言われたりした。当然だ、偏差値23から二年で偏差値70の国立医大に入った奴なんてそう居ない。
当然、地獄だった。自分の怠惰っぷりもよくよく理解していたので、塾のコマは週8以上とった。365日、一日二十時間毎日勉強して、二時間しか寝なかった。朝起きて、食卓でコーヒーを持ったまま寝て全部こぼしたりした。
プリントを持ったまま電車内で寝てプリントが舞ったりした。ホームで二秒くらい失神するのも普通に怖かった。頭も胃もものすごく痛かった。二年間だ。何度も死にたいと思った。
小学校の頃のクラスメート二人が、塾の閉まる時間まで勉強した帰りにホームで手を繋いでた時とかは普通にホームに飛び込んで赤い花になりかけた。
『助けを求めると面倒な事になる』から、カフェインを入れまくって他人の眼の前では常に無理やり躁の状態に持って行った。よく、『悩み無さそう』『お前人生楽そうだな』と言われた。
生徒はたまに持て囃した。それだけだった。散々俺の事を馬鹿にしてきた連中は、手の平を返したように『天才だ』と言ってきた。分かっていると思うが天才とは努力せずに結果を出す人間の事だ。
ちょうど、弟の受験と被っていた。俺の死ぬほどの努力で表面上うまくいっていた俺の受験に関しては目もくれず、弟の受験にかかりっきりだった。
アパートと同じ構造でとても音がよく響く。家で勉強していると、勉強しない弟への大声での罵声がよく飛んだ。何度も言うがADHDだ。分からなくていいが、知って欲しい。
集中にかかる時間は人の数倍で、五感のノイズでとても気が散りやすく、再び集中し直すのにまた同じ時間がかかる。何度も静かにしてくれと言ったが聞く親ではなかった。
一度限界が来て、友人に相談しようとした事があった。『躁で振る舞っている場所しか見ていない』友人には冗談にしか見えなあったのか、盛大にウケた風に笑っていた。
休日勉強していたら、弟の進学先で、扉一枚隔てた向こうで四時間くらい口論が続いた時があった。コップがNメートル飛んだり手首の切り傷手の甲の刺し傷が増えたりしただけで済ませたことを後悔している。
その時も親は「お前達の事を思って」と言っていた。眼の一つでも潰しておけばよかった。
読んでいて分かると思うが、この時はまだギリギリ『助けを求める』ことをしていた。最後の、細い細い希望として。
そして、全部ぶっ潰された。それも、助けと認識されないまま、或いは自分が正しい事をしていると思い込んだまま。
そして、誇っていると思ってくれて構わない、結局、一人で全部どうにかしてしまった。全部敵であると認識したまま全部為してしまった。
ついに助けを求める動作が完全にできなくなった。喉を言葉が通ってくれない。こうやって、誰とも分からない、こちらに影響できない人間に対して字にすることが辛うじてできるだけだ。

これでもまだ、馬鹿な僕は人間を嫌わずに居た。
そして、かくして現役で偏差値70の大学にストレートで通って一通り落ちた人間をひたすら貶める合格体験記を書いて復讐を済ませた後、キラキラの悪夢みたいな大学生活が始まる。

正直ここまで書くだけで死にそうになってる。明日テストだ。親の鼻を折ったり弟の永久歯を折ったり30万のテレビを叩き割ったり親から十万の慰謝料をふんだくって東京に行ったりした話は、たぶん書かないだろう。
けれどまあ、ここに書いたことなんて大したことじゃないような出来事が今年の始めにあって、完全に人間を憎むようになった、というよりは憎まないと生きていけないようになった。
『全部憎んだ』のは本当じゃないにしても。☆を飛ばし合う中の人でも、精神や家庭環境や身体のどこにも欠落のない癖してなんか悩んでるような人、
何も為してない癖して評論をぶっこくような人に関してはたまに☆じゃなくてスマホを手裏剣みたいにぶん投げたくなる。体験談だけど、結構正確に飛んで命中したら三週間くらいの痣になる。
本当は憎みたくない、なんて。分かってる。人の想いなんて、どうでもいいんだ。何を為したか以外で、評価をしてはいけない。
なぜここまで憎む羽目になったか、書こうとしたんだけどこれ以上手が動きそうにない。
明日もテストだ。来週も、再来週も。

-追記-

視界が安定しない。目覚めた直後の低血圧のようなものがずっと継続している。
出来事は言わない。概論だけ言わせてもらう。
助けてほしかった。助けてもらえなかった。助けを求めたかった。誰もそれを許さなかった。誰も彼も俺に『お手軽な道化』を求めた。
相手方はどう認識しているか知らないが、イジメは小学校から今まで、ずっと続いている。
つまり他者は、『自分を害して、その癖利益や助けを求めることは許さない存在』、つまり敵以外のなにものでもなかった。ずっとずっと。
そして、一番大きなこと、これを文字にするのが苦しくて仕方ない、考えたく無くて仕方がない。ここまで憎まなければならなかった理由。最初の記憶。
考えようとするとそれは隠れてしまう、こんなに重いのに。それが一番重要なのに。これまでのなんて前座にもなりやしないのに。

憎まないと、生きていけないのだ。
I hate you, because…
『』
I
『』
I loved
『』
誰かの事を思って行動して、それが良かったことなんて一度もなかったから、。えろl;めくぁdfヴぁえ
誰かの事を思って行動すると良くないことが起こるから二度とそんなことしないように
憎むしかなかった。
最初、助けを求めようとしたら死ぬと言った親を想って、助けを求めないようにした、それがこのザマだ。
最後まで、想いに付け上がって搾取され続けた、最後まで、親は自分の命を人質にして僕に誠意を要求した。、今度は鬱になっていたのは親ではなく僕だったのに。
『お前のことを思って』と言って、しにかけの僕に、テスト期間の一週間前に心臓のこととか諸々のことを言って、かつこっそり行っていた心療内科に乗り込んで出禁にされた、それだけだ。
自殺未遂して、ほとんどの単位を落として、結果今留年が確定して、まあ起こったことは要約すればそれだけだ。
想えば裏切られる、だから憎まなければならない。愛せば奪われる、だから憎まないと生きていけない。
別になんにも偉いこと尊いこと確かな意志も思想もなにもない、ただ、それだけの出来事、境界例とかの延長線上のこと。
そうなる理由があって、そうなった、それだけだ。
仕組みが分かったところで、病気はなにも治らない。

助けられたあなたが羨ましい。
憎みたくなんてなかった。
助けられたかった。
誰かを好きになりたかった。
でも、もう全て起こってしまった。
助けてほしい、
そうすれば
憎まなくて済むかもしれないのに。
助けてほしかった
そうすれば、
こんなに憎まなくて済んだのに
助けて

せめて、あなたみたいに一緒に飲んで一緒に泣いて一緒に笑い合える人が居たら、助けられなくても人を愛せたかもしれないのに、
今日も隣には誰も居ない。

明日はテストだ。来週もテストだ、再来週もテストだ。再再来週も。終わらない。追試は無いから一個落とす度に再履修が一つ増える。病気もきっとずっと治らない。大学にも居られるかどうかわからない。

終わりが見えなくなってきたので、ここらで切り上げる。
いつか、一筋の光のことも、書きたい。

小説が書けない

時間的に、肉体的に、精神的に
金曜日の追試を受け損ねた。鬱がひどくなって立ち上がれなかった
親の病院から胃腸炎の診断書をもらってきた
親はそれを偽のものだとしてばれないようにしろと口を酸っぱくして言った
大丈夫、全部、本当だから。嘘っていうのが嘘だ。
一週間に一度は吐く。基本的に一日一食しか喉を通らない。
理由は簡単でカフェインの取りすぎだ。そうでもしないと動けないくらいに精神も限界にきている。
コーヒー二十杯分の効果があるものを一日に三本飲む。胃が暴れる。そうまでして、約束された栄光とやらを守らなければならないのか
僕はそんなに医者になりたいわけじゃない。ただ、自分が自分であることの証明として行ったことの副賞としてついてきただけのものなのだ。
それのために一度きりの人生を無駄にするほどのものではない。少なくとも僕にとっては。僕が入ったことで押し出された一人がなんと言おうともそういうものなのだ。僕の中では。
小説を書きたい。こんなにも文字が打てるのに、いざ物語を書こうとすると肝心の所で手が動いてくれない
『わたし達はまだまだ不完全だ。油断すれば傷の場所を明かしてしまう。分かっていても相手の触れられたくない所へうっかり立ち行ってしまう
不注意で、油断で、そして、まだ傷を癒してくれる誰かへの期待を捨てられないから』
『傷があるのかないのか、どこにあるのか、そんなこと誰にも聞けずに、苦しみなんて誰もが味わってるって誰かが言っていて
もしそうだとしたら、あの苦しみをこの世界のみんなが味わっているのだとしたら、何でもない日の夜一人で泣いて
みんなと笑って話した後一人で吐いて、傷の事も知らない相手をすきになるなんて想像できなくて、じぶんが幸せになる未来なんて想像できなくて
そんな苦しみを、生きとし生けるもの全てが味わっているのだとしたら、この世界に神様なんていない、ここは地獄だ。そんなもの、消えてなくなれ』
そんな二節を書くために、周りの文章を埋め込む。小説を書きたいのではなくて、僕の声を聴いてほしくて、そのための手段が小説なのかもしれない
まだ、こんなものじゃ足りない、こんなものじゃ伝わらない。そんな事をしているうちに時間が過ぎていく。
明日もテスト、週末もテストだ。500個の英単語を覚えなければならない。出席点欲しさに毎回出席していたのに、鬱で倒れて出れなかったから欠席1だ。
睡眠薬を飲む。どれだけ寝ても、どれだけ休んでも、起きた後に待ってるのは、休んだ分だけひどくなっていく現実だ。